山形米の専門店 尾形米穀店の尾形雄司です。
今回は、東京で料理人をしている友人に依頼し、お米の食べ比べレポートを仕上げて頂きました。
今回のお米の食べ比べは、「ひとめぼれ」と「どまんなか」という、どちらも粘りが控えめでスッキリした食感のお米です。
参考ページ:お米の食べ比べ特徴チャート
色々な料理で食べ比べてもらった上に、料理人ならではのプロの視点を交えた感想は、お米の専門家の自分たちが見ても、とても勉強になりました。ぜひ、ご覧ください^^
こんにちは。
私は尾形さんの友人のMという者です。
今回、尾形さんに、「ひとめぼれ」と「どまんなか」の食べ比べをしてみてほしいと言われたので、張り切って食べ比べをしてみました。
ちなみに私は東京で和食の料理人をしており、実家は宮城県で3代続く米農家です。
ということで、友人の頼みとはいえ、プロとしてシビアな目で見ていきたいと思います。
「ひとめぼれ」ってこんな米
ひとめぼれは、東北地方を中心に北は青森県から南は沖縄県まで幅広く栽培されていて、日本での生産量はコシヒカリに次ぐ第2位。きっと誰もが聞いたことのある品種でしょう。
ひとめぼれは、昭和55年の大冷害が開発の発端となり、宮城県の古川農業試験場で耐冷性の強いコシヒカリと初星(はつぼし)を交配し、平成3年にデビューしました。
ちなみに当時は、お米と言ったら西の横綱「コシヒカリ」と東の横綱「ササニシキ」の時代。
東北の多くの農家がササニシキを作っていました。
しかし平成5年、東北地方は大冷害に見舞われ、冷害に弱かったササニシキはその年は大凶作。平成の米騒動と呼ばれる未曽有の米不足に陥り、日本はカリフォルニア米やタイ米を輸入する事態になりました。
当時、宮城県随一の穀倉地帯の地域で中学生だった私は、学校給食のお米にタイ米が出てきて、僕らが食べる米もないのかと衝撃受けたことを覚えています。
そしてこれを契機に、ササニシキを作っていた農家は、冷害に強いひとめぼれに一気にシフトチェンジ。
ひとめぼれは親のコシヒカリと同じように、味と香りが良く、ねばりの強いお米で食味の良さも折り紙付き。
栽培のしやすさと食味の良さで一気にシェアを拡大したひとめぼれは、現在に至ります。
「どまんなか」ってこんな米
ササニシキを超える美味しいお米を作るべく、山形農業試験場庄内支場で中部42号と庄内29号の交配によって作られたどまんなかは、平成4年にはえぬきと共に山形県のオリジナル品種としてデビュー。
名前の由来は、庄内平野のどまんなかにある山形県農業試験場庄内支場で生まれたためだとか。
はえぬきが平野部での栽培を主としているのに対し、どまんなかは中山間地域の主力品種として大いに期待されました。
しかし、デビュー翌年の平成5年の大冷害で壊滅的な被害を受け、その後は徐々に栽培されなくなっていき、今では、栽培している農家さんはほとんどいません。
ササニシキを超える食味を持ちながら、表舞台にほとんど並ばない。ある意味「幻の米」とも言えるのではないでしょうか。
「ひとめぼれ」と「どまんなか」の違いとは?
まずは炊く前のお米の粒や色などを見比べてみました。
色や大きさ、太さ、長さなど、ほぼ同じと言っていいと思います。
正直もっと差があるものだと思っていたので、意外な結果です。
ちなみにこの写真を撮った後うっかり混ざってしまったのですが、判別は不可能でした^^;
尾形米穀店さんは、お米と一緒に上記のようなパンフレットが同梱されています。
これから食べるお米の特徴や生産者さんの事なども書かれているので、食べる前から期待が膨らみますね。
そしてパンフレットを見て思ったのが、ひとめぼれとどまんなか、粘り、甘味、食感、すべてが同じ評価なのに、おすすめ料理が違うこと。
一体何が違うのか?これはとても気になります。
ちなみにパンフレットには、ひとめぼれのおすすめの料理は「お刺身と煮物」、どまんなかは「丼物」とあるので、今回はシンプルでさっぱりした味のものからこってりした味の濃いものまで、味の幅を広げておかずを作り食べ比べることにしました。
今回食べ比べで用意したのは以下の5品です。
・お刺身
・イクラの醤油漬け
・ピーマンと塩昆布のごま炒め
・鶏の照り焼き
・麻婆豆腐
◆いざ、お米の食べ比べ
まずは炊き上がりをそのまま食べてみます。
ちなみに今回は公平を期すために、土鍋を2つ用意して両方同時に炊き上げました。
食べる前に炊きあがったご飯をお茶碗によそって見た目の比較。
写真では、後ろに置いたお米の袋の反射光の影響でひとめぼれの方が少し黄っぽく見えますが、肉眼で見た分には色、ツヤ、大きさなど、見た目での差はほとんど感じませんでした。
まずはそのまま一口
ひとめぼれの方は、噛んだ瞬間に甘さとみずみずしさを感じました。
粘りはありますがそこまで強くなく、どちらかと言うと、すっと入ってくるようなイメージです。
シンプルに素材の味を感じさせるようなおかずと合いそうな印象です。
どまんなかの方は、ひとめぼれと比べると、粘りが強く、もちっとした感じです。
また、お米独特の香りと味が強く最後まで主張するイメージです。
お米自体の主張が強いので、味の濃い料理には合いそうな印象。
この段階で、おすすめがお刺身と丼物に分かれていることに妙に納得しました。
◆お刺身でお米の食べ比べ
食べ比べは味や脂の薄いものからが鉄則です。
ということで、まずはひとめぼれのパンフレットにオススメと書いてあったお刺身から。
ひとめぼれ:刺身の繊細な味や食感の邪魔をせず、魚の脂もしっかり感じることができました。
どまんなか:粘りが強く米独特の香りが強い分、口の中で刺身と主張がぶつかり合います。
個人的に刺身との相性はひとめぼれに軍配。
◆イクラの醤油漬けで食べ比べ
ひとめぼれ:イクラや醤油の風味、塩味をしっかり感じます。サッパリした印象。
どまんなか:お米の粘りとイクラの醤油が良いバランスで混じり、食べた感が凄い。
イクラ丼を、飲んだ後のシメでさらっと食べるならひとめぼれ、食事としてイクラをたっぷりご飯にかけてガッツリ食べるならどまんなか、そんな印象を受けました。
◆ピーマンと塩昆布のごま炒めで食べ比べ
ひとめぼれ:ピーマンやゴマの香り、昆布の塩気と旨味との調和がマッチ。
どまんなか:相性は良いけど、ひとめぼれと比べておかずの量が必要かも。
ここまで食べて確信したのが、お米の粘りや香りが、塩や脂の感じ方に大きな差を生んでいるということ。
特にこのピーマンと塩昆布のゴマ炒めでそれを顕著に感じました。
◆鶏の照り焼きで食べ比べ
ひとめぼれ:照り焼きのタレや鶏の脂の甘味、塩味など、おかずの味が引き立つ感じ。
どまんなか:タレと混ざってどっしりとした食べ応え。食べた感が素晴らしい。
◆麻婆豆腐で食べ比べ
ひとめぼれ:麻婆豆腐の邪魔を一切しない感じ。サラサラいけちゃう。
どまんなか:麻婆豆腐のとろみとご飯の混ざり具合が絶妙。食べ応え抜群。
◆冷めたご飯も食べ比べ
写真を撮るのを忘れちゃったのですが、塩むすびを作り、冷めたご飯も食べ比べしてみました。
ひとめぼれの方は塩の甘味や旨味を強く感じました。
おにぎりにするなら、塩鮭や梅干し、たらこ等、シンプルで油分が少ない具との相性が良さそうです。
うん、これはきっとお茶漬けにも合うハズ。
どまんなかは、粒感や粘りが強めで、シンプルな素材よりは、ツナマヨや鮭はらす、天むす、味付きご飯等、濃い目の具や混ぜご飯系との相性が良さそうです。
◆食べ比べてみてのまとめ
食べ比べてみて、ここまで明確に違いが出るものかと感心しました。
簡潔にまとめると、ひとめぼれの強みは、スッキリとした口当たりとみずみずしさで、おかずの味を引き立てる所。
そしてどまんなかの強みは、粘りと味の強さでおかずと合体する所。
パンフレットに書かれていたおすすめ料理の違いにも納得です。
例えば、お弁当のように限られたおかずでご飯を食べる場合やシンプルなおかずの時はひとめぼれ、ガッツリおかずをほおばりたい時や食べ応え重視の育ち盛りの子供にはどまんなか、といった感じで使い分けると良いかもしれません。
どちらも美味しいお米であることは疑いの余地なし。
あとは好みとシチュエーション次第といったところでしょう。
◆お米の食べ比べは楽しい
今回食べ比べしてみて、強みの違う品種を少量ずつ同時購入して、献立に合わせて使い分けたりすれば、選ぶ楽しみも増えて、普段の食事が今よりもっと楽しくなるんじゃないかと思いました。
実際、今回は夫婦で食べ比べをしましたが、ちょっとしたイベントとして楽しめました。
お子さんがいる家庭なら、きっと盛り上がること間違いなし。食育にもオススメです。
◆最後に
これは余談ですが、今回食べたひとめぼれは、私が宮城で食べていたひとめぼれよりも粘りが少なく感じました。(決して美味しくなかったわけではありません)
このあたりはきっと、産地や生産者さんで違いが出る部分だと思います。
なので[su_highlight background=”#fcec57″]「同じ品種で産地や生産者さん違いの食べ比べ」[/su_highlight]もきっと面白いんじゃないかと思いました。
いや~、でも、どちらのお米も本当に美味しかった。
さすが生産地まで足を運び、生産者さんの人柄まで見てお米を選んでいる尾形米穀店さんのチョイスは素晴らしい。和食料理人と同じく、これはプロの仕事だなと。素直にそう思えました。